2010年02月19日
TITLE:Vol.35 市内バスの旅(2) 2つの書道駅
朝8時すぎ、南原市内の「ヨンソン小学校前」バス停から、市営バス523系統に乗って、国道17号線を北に向かう。春香トンネルを抜けると、まもなく左折した。舗装道ながら、行き違うのがやっとの細い道。水田や人参畑の間に点在する小さな集落をまわっていく。バス停のポールすらないような場所に、どこからともなくおばちゃんが現れては、ぱらぱらと乗り降りする。こんな小さな村、もう一度訪れることがあるだろうか。小さな町との一期一会。バス旅は、これが楽しい。
やがて、道路の下に古い線路が見えてきた。
「お客さん、そこに見えるのが書道(ソド)駅だよ。ここで降りるといい」
運転手に促されて降りたのは、小さな三差路。右手の林の向こうに、小さな木造駅舎と集落が見えた。運行ルート図には、バスが駅を経由しないように書いてあったのが気になっていたが、駅の裏手を通るという意味だったようだ。
木造駅舎の向こうに、もうひとつ駅舎が見えた。新幹線かと思うような立派な高架線で、駅もレンガを貼った立派なコンクリート駅舎だ。小さな集落に、2つの駅。これが、書道駅のポイントである。
手前に見えた木造駅舎。実はこれ、2002年に線路付け替えによって移転・廃止となった、旧駅舎である。益山から全州、南原を経由して麗水に至る全羅線は、カーブが多く、極端に時間がかかる路線だった。そこで、大部分の区間に直線的な新線を新たに建設して、抜本的なスピードアップを図ったのである。向こうに見える高架線は、現在の全羅線だ。
廃止になった旧書道駅は、当初速やかに撤去される予定だった。しかし、『魂火』という小説の舞台になったことから保存が決まり、南原市の手によって、1932年の竣工当時の姿に復元されている。相変わらず、少々きれいに作り直しすぎてしまう韓国の「復元」だが、腕木式信号機や保線作業員の詰め所など、なかなか本格的だ。
それにしても、寒い。今朝の気温は、マイナス7度。風はあまりないが、刺すような寒さである。しかもここ、逃れる場所がない。駅舎は施錠されており、中に入ることはできないのだ。窓の鍵が一カ所開いており、入れないこともないのだが、中はセコムが作動中。周囲には民家が並ぶが、食堂などは皆無である。1軒だけある雑貨店は、まだ開いていない。
じっとしていると凍えるので、向かいにある現在の書道駅を訪れてみた。こちらも、人影がない。それもそのはずで、この駅には2004年以降、列車が1本も停車しないのだ。待合室の入口もふさがれている。
書道の集落には、駅の姿をした施設が2つもあるのに、列車を利用することはできないのである。
今、韓国の鉄道にはこうした列車の停まらない駅が激増している。鉄道が、クルマの方が圧倒的に優位な“近距離の地域輸送”から撤退し、“都市間高速輸送”に徹することにしたためだ。鉄道が生き残るためにはやむを得ない施策だが、旅の魅力は、だいぶ減ってしまった。
旧駅に戻り、駅舎の片隅に日だまりを見つけて、寒さをしのぐ。集落には人影も見えるというのに、生命の危険すら感じるレベルだ。市内へ戻るバスは、11時台。
「あと2時間15分」
「あと1時間37分」
僕は、ひたすらバスを待っていた。
- Permalink
- Comments (1)
- Trackbacks (0)
2010年01月15日
TITLE:Vol.34 市内バスの旅(1) ホームページでバス検索
バスの旅は、楽しい。特に楽しいのは、市内バスだ。観光地など全く通らなくても、乗れば、その町で暮らしている人々の生活を感じ取ることができる。
もっとも、市内バスの路線や時刻は時刻表には載っていない。そこで活用したいのが、自治体のホームページだ。
韓国は、ネット大国。市など自治体のホームページは、行政情報ばかりでなく、「交通情報/市内バス」の項目が充実している。ハングルの地名を読むことができれば、ここからプランを立てることが可能だ。最近は、乗り換え検索や、GPSを利用した運行状況を参照できる自治体も増えている。
12月。全羅北道の南原市を訪れることになった。丸1日時間があるので、市内バスを使って、ガイドブックには載っていない場所を訪れてみよう。
早速、南原市のサイトを開いてみた。交通情報が記載されている場所は、自治体によってさまざまだ。「文化観光」のメニューにある場合もあれば、トップページのどこかに、独立してリンクしてある場合も多い。南原市の場合、交通情報は「生活情報」のメニューに収められていた。トップページの「生活情報」にカーソルを合わせると現れる、"交通案内"のリンクをクリックすると、 別サイトである「南原市交通案内サイト」が表示された。このサイトでは、市内すべてのバス路線とバス停を検索でき、時刻表も参照できるようだ。これは便利。
今回、まず行きたいと思っているのが、南原市巳梅面にある「書道駅」だ。KORAILの駅だが、今では旅客列車は一本も停まらなくなり、列車で訪れることはできない。
しかし、駅があるということは、集落があるはずで、バスくらいは付近を通っているのではないか。そう考えて、「南原市交通案内サイト」の市内バス路線図をよく観察すると、ずばり「書道駅」のバス停を発見。早速クリックしてみると、「書道駅」バス停を発着する市内バスの時刻が表示された。1日5本、バスがある。よし。
前後のスケジュールを検討すると、朝8時42分に「書道駅」を発車する523系統のバスを利用するのがよさそうだ。帰りは、11時50分発の「ワンジョン洞車庫」行きで戻ればよい。書道駅滞在時間は、約3時間だ。
しかし、ここで不安要素がひとつ発生した。「書道駅」バス停の時刻には、たしかに523系統のバスが発着すると書いてあるのだが、運行ルート図を見ると、「523系統」は書道駅を経由しないように見える。これはどういうことなのだろう。
まあ、仮に書道駅を通らなかったとしても、その近所は通るようだし、滞在時間は3時間もあるので、いちばん近いバス停で降りて歩けばいいだろう。
こうして、プランニングは一応完了。12月16日朝8時9分、僕は南原市内の「ヨンソン小学校前」バス停から、ロボン行きの523系統バスに乗り込んだ。きっちり時間通りにバスが来るのは、地方都市ならではだ。
「書道駅、行きますよね」
確認すると、運転手はうなずき、「運賃は降りるときに払ってください」と言った。
列車の停まらない書道駅に、いったい何があるのか。それは、次回に。
- Permalink
- Comments (1)
- Trackbacks (0)
2009年12月18日
TITLE:Vol.33 清凉里→江陵 列車の旅(3)
東栢山(トンベクサン)駅から、嶺東線に入った。海抜680mの桶里(トンニ)駅を出た列車は、下り勾配を静かに走る。
車内は、閑散としている。この車両には、僕のほかは3人しか乗っていない。がったん、がったんと、レールの音だけが規則的に響いていた。
窓の外を過ぎ去る木々の間から、時々下界の景色がちらりと見える。数十メートル下に見えるのは、この後通過する線路だ。この先のトンネル内で、列車は坂を下りながら180度方向を変えるのだ。
羅漢亭(ナハンジョン)の三段スイッチバックに近づいている。『韓国語ジャーナル』25号で紹介した、つづら折り状に進行方向を変えながら急斜面を越える区間だ。桶里駅は、いわば崖っぷちに位置しており、約350m下にある道渓(トゲ)駅までそろりそろりと降りていく。一気に斜面を降りるのは、鉄道には急すぎるので、崖にへばりついたままジグザグに動いて、少しずつ降りていくというわけ。
ずいぶん前から、巨大なループトンネルでショートカットする新線の建設が行われており、来るたびに「来年には廃止」と言われ続けて、早4年。トンネルは完成したが、既存の線路に接続する工事が遅れているそうで、幸か不幸かいまだに現役だ。日本には、まだ数カ所のスイッチバックが残っているが、これほどのスケールと車窓を楽しめるところは、ほとんどない。
行き止まりの興田駅に停車。すぐに、列車は後退を始め、1000分の30(1000m進むごとに30mの高低差)の急勾配を時速10km程度の徐行でゆっくり降りていく。2度も方向を変えるうえ、徐行で通過するので、この区間は特に時間がかかる。新線ができれば、15分ほど所要時間を短縮できるそうだ。だが、それでもソウル-江陵間はバスのほうがはるかに速いのに変わりはない。快適な列車に乗りながら、崖伝いに山を上り下りする絶景を味わえるスイッチバック。なんとか、これを生かす方法はないものだろうか。
道渓駅が近づくと、線路脇に新線へつながる真新しいトンネルが見えた。線路さえ敷けば、すぐにも列車が走れそう。去年、KJの取材で通った時は、こんなにできてはいなかった。長年親しんできた羅漢亭スイッチバックも、いよいよ役目を終える日が近づいているようだ。
道渓駅17時13分発。すでに、清凉里を出発してから、5時間以上が経過している。終着・江陵まではあと1時間半。ラストスパートだ。
列車が1本も停まらないが、きれいな駅舎が保存されている桃京里(トギョンニ)駅を過ぎると、まもなく東海(トンヘ)駅に停車。列車は、日本海の海岸沿いに出た。ついさっきまで、太白山脈のてっぺんにいたのが信じられない変化だ。この路線の、大きな魅力のひとつだ。
「皆さま、今日もKORAILをご利用くださり、ありがとうございました。終着・江陵に到着します」
自動放送の案内ののち、車掌の肉声による挨拶が流れた。清凉里駅から、6時間40分。しかし、変化に富む車窓風景と、ぜいたくな特室シートのおかげで、たいして疲れは感じない。韓国の自然美を、1日で余すところなく楽しめるのが、この列車の醍醐味だ。
窓の外は、そろそろ暗くなってきた。江陵に着いたら、駅近くのモテルに入って、シブイ食堂でも探すことにしよう。
まろんの車窓から 清凉里→江陵 列車の旅3
- Permalink
- Comments (0)
- Trackbacks (0)















